2010年03月08日

The Hurt Locker

日本では3月6日の公開となった映画「THE HURT LOCKER」を早速観に行ってきました。
あまり細かな事を書くと、ネタばれになりかねないので、ストーリーの具体的なところには触れずに、映画内で登場するEODやIED、爆薬や火薬といったそこから派生する情報を基に、自分自身のメモ帳として書き記しておきたいと思います。


© 2008 Hurt Locker, LLC. All Rights Reserved

「戦場」という名の日常において、防護服を身にまとい爆弾の配線を確認し、信管を取り除く作業。
イラクに派遣された米軍兵士の戦死理由の半分以上が”爆弾”によるものと言われる現実を忠実に再現したドキュメンタリー映画。
映画のジャンルとしては「戦争アクション」の部類にあるという風にもされていますが、私個人的には「アクション」がウリの映画というよりも、今なおこの地球上で起きている現実を映画を通じて世間に知らせるメッセージ性の強い映画のように思います。

さて、映画の舞台は戦禍の混乱が今なお深い爪あとを残している地、2004年のイラク バグダッド郊外。アメリカ陸軍ブラボー中隊でEOD(Explosive Ordnance Disposal:爆発物処理)の任務に就く隊員の38日間の任務を時系列と共に描かれた内容となっています。

映画のタイトルともなっている「Hurt Locker」とは一体どういう意味なんでしょうか。英単語自体の意味で言うと、「Hurt」は「傷」や「苦痛」、「悪意」といった名詞と、他動詞として「傷つける」という意味合いがあります。
また、「Locker」とは日本語でも「コインロッカー」でも一般的な「ロッカー」や「箱」といった意味があり、これら2つの単語を繋ぎ合わせると「痛みの場所」や、意訳で「行きたくない場所」、そして兵隊用語で「棺桶」の意味や、スラングで「ヤバイ状況」という意味じゃないかと、色々な憶測が飛んでいるようです。
私個人的にはもっとシンプルに「傷つける箱」的な意味で、単に爆弾を少し別の表現であらわしているだけじゃないのかな・・・と。



DoD photo by Staff Sgt. Samuel Bendet, U.S. Air Force.
イラク Ruwaydah で発見された爆弾を爆発物リストとの照合作業を行う米陸軍EODの隊員。

米軍のイラク侵攻以後において、反米勢力、反政府組織がIED(Improvised Explosive Device:即席爆発装置)の設置が氾濫している事は周知の通りで、上記のような現実世界で活躍する米軍EODの写真は、米軍の”パブリシティー”としても積極的に活用されている為、ミリタリー系フォーラムサイトに連日のように掲出が確認できます。


Official U.S. Marine Corps. Photo by Cpl. Thomas J. Hermesman
こちらの写真にあるのがIEDの一例。アフガニスタン南部へ向かう米海兵隊の隊列をターゲットとして仕掛けられたこちらのIED。
IEDには決まったルールが無く、その場の間に合わせで造られた文字通りの「即席爆弾」となり、手榴弾レベルの爆発規模のものから、戦車を破壊する目的とした大規模なものまで存在しています。
また、瓦礫の中から集めるのそうそう苦労することのない、釘やボルト、ベアリングといったガラクタを詰め合わせ、対人殺傷能力を高めた卑劣なIEDも多く存在しています。

学生時代に工業火薬学を学び、そして社会人になってから発破のテキストを何度と無く読み返したものでしたが、あれから10数年も経った今となっては、当時学んだハズの知識のカケラも頭の中に残っていない事に悔しさ以上の寂しさがこみ上げてきます・・・。やっぱり歳には勝てませんね(涙。
専門的な内容は当時の事を思い返しながら、そしてネット上の文献を紐解きながら書き足していきたいと思います。

地球上における生命誕生以来、人類が他の生命体と異なり、飛躍的な発展を遂げるに当たって大きな貢献をした「火の取り扱い」。人類が火を自由に取り扱うことが出来た事によって、暖房による住居取得の範囲拡大、加熱処理による食物確保、天敵からの身を守る手段・・・、徐々にその生活圏を拡大する事ができました。

「火」により強さを求めるようになり、人類はいつしか化学的に近い事象である「火薬」の存在を、日常の経験より手にする事となりました。その歴史は古く、マルカス・グレーカス(Marcus Graecus)によって8世紀に出版された書物によると、既に7世紀のギリシャでは自然界で生成する事ができる硝石を酸化剤とし、硫黄、油を用いた混ぜ物から火薬の原形となる物質を武器として用いていた事が知られています。この構成は現在でもBlack Powder(黒色火薬)として広く知られる火薬と同じものとなっており、身の回りで手に入れる事ができる素材で構成されていることからも、当時の人が化学反応の原理からではなく、経験によるものであることがうかがい知れるわけです。

ギリシャや中国で積極的に取り入れられた黒色火薬以降、自然界に存在する物質の単純な組み合わせだけでは、火薬の更なる大きな改善を見出すことが出来ませんでした。火薬技術におけるターニングポイントとなったのは19世紀半ば。1845年、シェーンバインによって綿薬の合成が発見され、ニトロセルロースが誕生。これによって硝酸エステルの技術が歴史に登場。

ニトロセルロースの発明から数年後には、ニトログリセリンが合成され、多くの貴重な犠牲を払って次なる大きなターニングポイントとなったのが、ノーベルの発明。そう、ご存知ノーベル賞のノーベルが歴史に大きく名を刻むわけです。
ノーベルはニトログリセリンの鈍化の為に、けい藻土を混ぜることを発見し、固形状となった強力な爆薬、ダイナマイトを発明しました。
※ダイナマイトとは、ニトログリセリンを主剤とする爆薬の総称です。

ところで、「火薬」と「爆薬」ってどう違うのだろう?と思った事は無いでしょうか。日常生活で言葉として用いる際に「爆薬」と「火薬」とでは大差無い使用を行いますが、科学的な視線や工業的な視線からみた場合、これらは全く違った意味合いで使い分けられています。

これら2つの大きな違いとして真っ先に挙げられる1つの目安としては、その燃焼速度が音速以上か以下であるか。つまり、340 m/s ( = 1225 km/h)以下の燃焼速度のものを「火薬」、それ以上の燃焼速度のものを「爆薬」として使い分けて表現される事が多いようです。


U.S. Navy photo by Petty Officer 2nd Class Walter J. Pels
イラクのShuzayfでアメリカ陸軍が敵対勢力が潜伏中との情報に基づき掃討作戦を実行中の一幕。敵組織が居ると思われた建物を爆破。

合成化学の技術が発達した19世紀後半にはトリニトロトルエン(TNT)、ペンスリット、ヘキソーゲン(RDX)といった新火薬物質が合成され、以降現在に至るまでの100年以上もの間、世界の第一線でも一般的に浸透した爆薬となっています。

現在では多数の爆薬が世界中で開発され、脂肪族爆薬の中には爆速が9,000m/sを超えるものまであります。
この強烈な爆轟による衝撃で、周囲の物質を破壊するわけです。
ダイナマイトによる岩盤の破壊や、ANFO(硝安油剤爆薬)による丘陵爆破を経験しましたが、見聞きしているものと違ってその迫力に圧倒されたのをよく覚えています。
仕掛ける直前に爆発の根源となる爆薬を手に取る時にゴクリとツバを飲み込む音が妙に喉元で響いたのが昨日の事のようにすら思えます。


U.S. Army photo by Sgt. Rodney Foliente
こちらは映画「The Hurt Locker」でも度々登場する対爆スーツ(Bomb Disposal Suit)を着用した米海軍のEOD隊員。こちらの隊員は対爆スーツを着用した状態で1マイル(=約1,600m)を10分13秒で完走し、見事ギネス・ワールドレコードを樹立。

40Kg以上もある対爆スーツを着用し、7月と8月の2カ月に至っては最高気温が50度を超えるイラクの過酷な気温ではまさに地獄の環境。想像しただけでもゾッとします^^;

対爆スーツを着用した状態で一体どのくらいの効果が期待できるのか、やはり気になります。そこでドイツの対爆スーツメーカーForce Wareのカタログpdfを見てみると、体の部位毎に最大で防御できる爆速が記載されていました。それによると、大よそ400m/s~700m/sまでが対爆スーツによって防ぐ事ができる範囲のようです。その為、実際には爆薬を直接手に取る際にはあまり意味が無い場合もしばしばあるようです・・・。
対爆スーツについては興味深い内容の記事がWikiに記述されているので、そちらを参考にすると面白いと思います。
対爆スーツ - ja Wikipedia


Photo Courtesy of U.S. Army
さすがに40Kg以上の対爆スーツを脱ぎ着するとなると、1人では出来ないようです。衝撃波が進入しないようにするため、基本的には密閉構造とする必要があるので、呼吸するための空気はフィルターを通した換気装置で供給されます。

Wikiでの記載によると、「100g以下のトリニトロトルエンぐらいなら10フィート(約3メートル)の距離で爆発しても命は助かる事がMIL規格とNIJ規格で定められている」とあります。たったの100gで人間の命を左右する衝撃を持っている事を考えると爆薬ってホントすごいですね・・・。
映画「The Hurt Locker」の公式サイトにも記載があるとおり、爆発物処理に従事する技術兵士の死亡率は他の一般兵と比べて遥かに高いという過酷な現場であるのは、みなまで言わずとも分かる気がします。


Photo Courtesy of U.S. Army
イラク・バクダッドから100Km南部に位置するHillaで発見されたロケット弾を調査するEOD隊員。

左腕にあるパッチが映画「The Hurt Locker」でも登場する爆弾のマークのパッチとなっています。左腕に貼るパッチが現所属の部隊章、対する右腕に貼るパッチがその直前に所属した部隊章となる事から、こちらの隊員は山岳部隊に居たことが分かります。


U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Charles Oki
在日米軍横須賀基地内で、Mark II Talon ロボットを用いて不審物を検査中の様子。

世界の超大国アメリカは軍事も勿論世界一。最近では何でもかんでも無人化していっていますが、こうした自軍の人命に直接かかわるところにロボットを持ち込む事はやはりといった感じです。米軍四軍のイメージギャラリーを巡回していると、有名な無人偵察機も、小型化されたり、逆に大型化となったものでは爆撃機のような様子のものなんかもあって、まるでSF映画のような状況が実際に起こっている事が分かります。血も涙も流れていない冷たいロボット相手に生身の人間が戦う時代に本格的になってきたんだなと実感させられます。映画「ターミネーター」のような世界も起こり得るのかも・・・。


映画「The Hurt Locker」の中でも度々登場するハンビー(HMMWV, Humvee:High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle = 高機動多用途装輪車両)。ハンビーのキャビン上にあるターレットリンクが装甲板で覆われ、M2重機関銃があるという組み合わせは映画「The Hurt Locker」でも何度と無く登場するのですが、その度に食い入るように見てしまいます。カッチョイイんですよね、この組み合わせが。


Photo: Reuters / Asmaa Waguih
アフガニスタン南部の州、ヘルマンド州(Helmand province)で車両の点検を行う米海兵隊員。

こちらの写真では、ハンビーとMRAP(Mine Resistant Ambush Protected、エムラップ、耐地雷待ち伏せ防護)車輌の組み合わせ。MRAPはIEDなどによる路肩爆弾から輸送車列やパトロール車輌に搭乗するアメリカ軍兵士を守ることを目的に普及を急いでいる装輪装甲車輌。昨年秋頃(だったかな?)に発売されたコンバットマガジンにも車輌特集の1つで詳細が公開されていましたね。あの時誌面を飾った迫力の爆破写真は耐爆試験中のCougar HEのものでした。ネット上を探してみるとどうやら一般的に公開されていた写真のようです。(Wikiにも掲載されています)

米軍が掲げる「MRAPプログラム」では、とりわけイラク、アフガンで展開中の海兵隊において全てのハンヴィーをMRAP化させるべく進められているようです。


アフガニスタンのHelmand州でBarrett M82を使って敵対勢力を狙撃する米軍兵。こちらの写真、バレットを使ったスナイパー(狙撃手)とスポッター(観測手)の組み合わせは勿論、黒人、白人の組み合わせまでもが映画「The Hurt Locker」と全く同じ光景ですw

映画「The Hurt Locker」で登場する賞金稼ぎのオペレーター。ある意味ミリタリーファンにはこちらの登場が主人公の設定部隊よりも気になる存在だったかもしれません。それにしてもちょっと・・・頼りない感じのオペレーターでした^^;

映画「The Hurt Locker」は、原案提供を行ったマーク・ポール氏のイラクにおける取材体験に基付いたものとの事なので、映画に登場したような、ちょっと頼りなさそうな感じのオペレーターが実在したのかもしれませんね。

と、色々と脱線しながら映画「The Hurt Locker」にまつわるキーワードを掘り下げてみました。
映画「Avator(アバター)」のジェームス・キャメロン監督の元奥さんがこの「The Hurt Locker」のキャスリン・ビグロー監督だということで話題になったり、「The Hurt Locker」製作者の一人・ニコラス・シャーティエが、電子メールで投票を呼び掛けるなどの不正行為を行った事が取りざたされたりと、今年度のアカデミー賞に対するゴシップを賑わしています。

色々なメディアに取り上げられ、非常に評価の高い「The Hurt Locker」ですが、私個人的な感想としては、表現がちょっと高度過ぎてよく分からなかったのが率直な感想。無鉄砲で怖いもの知らずの主人公が次々とミッションコンプリートをこなす中で感じる恐怖。相反するものを1つの映画の中で巧みに表現しているのですが、アメリカンジョークよろしく何故そこで急に怒っているのか、何故そこでそういう行動をとるのかといったものが私にはよく分からないシーンが多く感じました。

ちなみに、どっかで見たことあるなーと思っていたら、主演のSgt. William James(ウィリアム・ジェームズ二等軍曹)役の俳優さん、Jeremy Renner(ジェレミー・レナー)は、映画「S.W.A.T.」のブライアン・ギャンブル役で登場していた方ですね。

もっとシンプルなドンパチモノの映画の方が私のような単細胞には向いているのかも?!と改めて思った次第です(笑)。

次は5.14ロードショーのマット・デイモン主演の映画「グリーン・ゾーン」に期待!!こちらも絶対に観に行きます!
映画「グリーン・ゾーン」
・・・実はブログに書いていないだけで、最近公開となった話題の映画は、かなりの確率で映画館へ脚を運んで観に行っています・・・。

参考文献:
火薬のはなし (SCIENCE AND TECHNOLOGY) - 久保田 浪之介 (著) / 日刊工業新聞社
Posted by ahahamaster at 14:56│Comments(0)
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